クラシックな佇まいに、アールの効いたツバ。目元を隠すほど深いハットは、伝統的なお祭りの編み笠を彷彿とさせる優艶な趣き。
今季のコレクションの中でも、唯一無二の存在感を放つハット。一般的な製法では作ることのできないその個性的なハットは、日本でも数少ないオートクチュールの技術を有する「KIJIMA TAKAYUKI」との協業によって実現しました。細部にまでこだわり抜いたハットを製作中のアトリエを訪ね、ハットデザイナー・木島隆幸氏に話を伺いました。
−Mame Kurogouchi(以下、Mame)とのコラボレーションは二回目です。今回のデザイン画を見た第一印象は?
前回も麻を使ったいわゆる麦わら帽子でしたが、ツバが広いオーセンティックなデザインでした。今回は打って変わって、クラッシックな印象のハット。でも、そのなかにもMameらしい、軽やかさを感じました。
−軽やかさ?
はい。50年代のフェルトハットのような小ぶりでエレガントなシルエットがベースですが、帽子のトップクラウンの部分をメンズの中折れ帽のように細く凹ませることで、クラッシックになりすぎないデザインだと感じました。深いハットはフォーマルになりがちですが、ちょっとした工夫で軽やかに、被りやすい印象になっているのが、Mameらしいデザイン。
−ツバのアールも特徴的です。
目元がちょうど隠れるくらいの絶妙な曲線。この部分がほんの少し変化するだけで、ハット全体の印象が大きく変わるので、トワルを作る際に、何度も試行錯誤しました。
−トワル?
はい。オートクチュールのハットは、デザインごとにトワルを特注します。既存の型ではなくオリジナルの型を一から作り上げるのは、オートクチュールならでは。ハットの完成度を決めるもっとも重要な工程ともいえます。
−素材へのこだわりは。
Mameの服は、ドレープや曲線、生地の流れるような美しさに目を奪われます。そういった服に合わせるとしたらどんな生地がいいだろう?と考えたときに、しっかりとフォルムが際立ち、透け感のなかに夏らしい涼やかさのある生地がいいと感じました。
−ハット作りをするときに洋服との相性は大切?
もちろん。初対面の人に「どんなハットが似合うとおもいますか?」と聞かれると「どんな服を着ますか?」と聞き返します。そのハットを合わせるコーディネートや被っていくシーンを想像しながら作る。今回は、Mameの洋服に合うように、イメージを深めながら進めました。
−素材として選ばれたのは、ケンマ草とアバカーサと呼ばれるブレード。それぞれの作り方の違いは。
ケンマ草は、すでにクロッシュハットのような形になっている生地をトワルに添わせて何度もスチームをあてることで成形します。一方、ブレードは、ミシンで縫っていきます。
−ブレードハットを縫うスピードの速さに驚きました。
陶芸で使用するろくろも速く回さないと綺麗に成形できないように、ブレードハットも素早く縫わないと軸がぶれてしまうんです。
−あえてスピードを出す。
途中でトワルにのせて形を確認しますが、その作業も極力少なく。できる限り途中で止めないように縫っていきます。1個を15分くらいで縫い上げるのですが、体を固定して、集中力も使うので、体力を消耗するんです。1日に20個を目安に丁寧にひとつずつ仕上げています。
−すべて木島さんの手で作られている。
はい。指先の感覚のみを頼りに縫っていくので、技術を継承するのがなかなか難しいんです。実際、このミシンを使える人はたくさんいますが、このように個性的なシルエットのハットを縫える職人は数えるほどしかないのが現状です。
−とても繊細な作業です。
もう何十年もこのミシンを愛用していますが、納得がいくハットが作れるように、何度もメンテナンスと改良を続けています。黒河内さんが思い描く、細やかなデザインを立体的にしていく。地道な作業ではありますが、これこそオートクチュールの真骨頂。とてもやりがいを感じています。
Photography and Movie : Yuichiro Noda / Words & Edit: kontak